大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和36年(オ)553号 判決

上告人

畑田合資会社

右訴訟代理人

荒谷昇

被上告人

金沢信用金庫

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人荒谷昇の上告理由第一、第三点について。

訴外畑田外次が本件不動産を上告会社に売り渡し同会社が訴外小松松次郎、同増田善松に対し、所論抵当権の設定をしていることは、原判決(第一審判決引用)の認定判示するところであつて、所論指摘のとおりである。

そもそも、詐害行為取消の訴を認容する判決の効力は、相対的であると解せられるから、訴外畑田と上告会社との間の譲渡行為を取消の対象とする本件のごときにあつて、受益者たる上告会社が当該不動産上に第三者のための抵当権を設定したからといつて、右抵当権付のまま不動産を債務者へ復帰させることをもつて一般債権者の債権の共同担保を確保し得て債権者取消権行使の目的を達し得るような場合には、債権者は転得者たる抵当権者に対し抵当権設定の取消を請求しなくても受益者に対し譲渡行為の取消並びにその所有権取得登記の抹消登記手続を請求できると解し得ることは、原判決が原審における参加人の参加申立許否の判断について説示するとおり、これを肯認できるが、その反面また、債務者畑田と受益者上告会社との間の本件不動産の売買契約が詐害行為として取り消されて上告会社の所有権取得登記の抹消手続がなされていても、転得者たる訴外小松、同増田の抵当権は当然消滅に帰すものではないといわねばならないから、右取消後の状態においても、なお一般債権担保の目的たるべき本件不動産に対し依然として優先的な抵当権の追及が存続する関係にある。しかして、上告人の原審における主張によれば、訴外小松、同増田に対する抵当権の被担保債権額は、合算して本件不動産の価格を上廻るというのであるから、もしその主張が是認されるとすれば、特段の事情のない限り、本件取消権を行使してみても一般に債権者に対する共同担保の確保に寄与するものとはいい難い。従つて、原審としては、よろしく右主張の抵当債権額を認定して、それと本件不動産の価格との対比を考量し、本件取消請求が債権者取消権制度の趣旨とする共同担保確保の目的を達し得る場合にあたるかどうかを審按すべきであるところ(大審院大正六年(オ)第四七一号同年一〇月三日判決、民録二三輯一三八三頁、当裁判所昭和三〇年(オ)第二六〇号昭和三六年七月一九日大法廷判決、民集一五巻七号一八七五頁参照)、原判決は右の点を何ら考慮することなく、漫然本件不動産の所論売買契約の取消を認容し、上告人に対し所有権移転登記の抹消登記手続を命じている。

右は、原判決が民法四二四条の解釈適用を誤り、その結果として審理不尽、理由不備の違法をおかすものというのほかなく、結局この点を指摘する論旨は理由があり、原判決はその余の上告論旨について判断するまでもなく破棄を免れない。よつて、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員一致をもつて、主文のとおり判決する。(裁判長裁判官奥野健一 裁判官山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)

上告代理人荒谷昇の上告理由

第一点 本件に関する上告人の主張の一つは、

「本件不動産に対し、訴外小松松次郎に対し金五五〇、〇〇〇円、同増田善松に対し金三五〇、〇〇〇円の抵当権の設定がある。本件不動産につき、被告会社の債権者訴外能瀬清が強制競売の申立をなし、目下金沢地方裁判所昭和三四年(ヌ)第六一号として係属中であつて、その見積価格は、宅地金三六〇、〇〇〇円、建物金九〇、〇〇〇円、計金四五〇、〇〇〇である。したがつて仮りに、原告が本訴において勝訴するも本件不動産より一銭の弁済も得られないわけである。本訴はいたずらに抵当権者の権利侵害以外何ものでもない」(第一審判決事実摘示中被告の答弁第四、五項)

ということである。即ち本件不動産の価額は金四五〇、〇〇〇円であり、これに対し一番抵当金五五〇、〇〇〇円、二番抵当金三五〇、〇〇〇円、計金九〇〇、〇〇〇円の債務を負担しており、上告人と訴外畑田外次間の本件不動産の売買契約及びこれに基く所有権移転登記の抹消を求める被上告人の本訴は、訴えの利益を欠くものといわねばならない。

しかるに、右上告人の主張に対し、原審及び第一審は、何ら審理をした跡が見られず、結局、原判決は、民事訴訟法第三九五条第一項第六号の判決に理由を附さない違法があるものと思料する。

第二点(省略)

第三点 第一点に述べたとおり本件物件に抵当権が存するから、その剰余あらばその部分についてのみ取消し得ることは、従来の判決例とするところである。従つて原判決は従来の判決例に違背し、且つ民法第四二四条の解釈適用を誤つた違法がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例